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札幌高等裁判所 昭和25年(く)1号 決定 1950年9月26日

抗告人 森靖

主文

原決定を取り消す。

理由

本件抗告申立理由の要旨は被告人杉山惣七に対する物価統制令違反被告事件につき証人として昭和二十五年五月十日午前九時釧路地方裁判所帯広支部に出頭すべき旨の通知を受けましたが、腰椎炎にて長途の旅行困難なため岐阜地方裁判所にて証人としての尋問を行われたき旨の願書を診断書を添えて提出しておきましたが、今般正当な理由なく出頭しなかつたから過料千円に処すとの決定を受けましたが不服につき即時抗告を申立てますというにある。

記録を調査するに抗告申立人が釧路地方裁判所帯広支部の被告人杉山惣七に対する物価統制令違反被告事件の証人として昭和二十五年五月十日の公判期日に出頭すべき旨正規の召喚を受けながら該期日に出頭しなかつたことは明らかである。

それで抗告申立人が証人として召喚を受けながら、前記公判期日に出頭しなかつたことにつき正当な事由があつたかどうか考えて見ると、記録によれば抗告申立人から昭和二十五年四月二十八日附で釧路地方裁判所帯広支部の裁判官宛御願と題する書面とこれに添付した診断書が提出されていることが認められ、それには自分は病気のため長途の旅行にたえないから岐阜地方裁判所へ委託して尋問を行われたく診断書を添えて御願いする旨記載し、医師説田順一作成の四月二十八日附診断書には病名が腰椎炎であつて右病のため運動時と共に靜止時においても疾痛だるみを感する、依つて長途の歩行にたえない、旨記載してある。ただこの診断書には出頭することにより生命又は健康状態に著しい危険を招くかどうかの点につき特に記載はないけれども病名病状及び出頭の能否についての具体的な記載から見れば前記の事項についてもおのづから判り、右の診断書が必ずしも刑事訴訟規則第百八十三条に要求する記載要件を充していないともいえないばかりでなく、要件を備えないという形式上の欠缺が出頭しなかつた実質上の事由の正当性を阻むとも解されないところであり、抗告申立人提出の診断書によれば抗告申立人が当時腰椎炎にかかつていたことが認められ、それが重症とはいえないけれども岐阜県下から帯広市までの距離や現下の交通事情などを考へ合わせるとこのような病状でもなお抗告申立人が釧路地方裁判所帯広支部に出頭しなかつたにつき正当な事由があつたものと認めるのが相当であつて、抗告申立人の申立は理由があり、原裁判所が抗告申立人を過料千円に処したのは失当であるから刑事訴訟法第四百二十六条第二項に則り原決定を取り消すこととし主文のとおり決定した。

(裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野力)

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